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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8813号 判決

原告 堀川重晴

右訴訟代理人弁護士 久保田昭夫

同 平田辰雄

同 水上学

同 萩原健二

同 秋山泰雄

被告 日本ナショナル金銭登録機株式会社

右代表者代表取締役 石川繁一

右訴訟代理人弁護士 矢野範二

同 倉地康孝

同 坂本政三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告会社の従業員たる地位を有することを確認する。

2  被告は、原告に対し、金三、四〇三、一二二円および昭和四七年一〇月二〇日限り金一、五〇六円を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  2項について仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  被告は、金銭登録機、加算機、会計機、電子計算機等のメーカーである米国のナショナル・キャッシュ・レジスター・カンパニーが日本における事業を行なうために設立した資本金四〇億円の株式会社であって、右事務機の製造、販売および修理等を営むことを主たる目的とし、本社を東京都港区赤坂一丁目二番二号に設け、工場として神奈川県中郡大磯町に大磯工場を、東京都大田区仲六郷一丁目に蒲田工場を有し、都内各所をはじめ全国主要都市に六五か所の営業所を設けるほか、神奈川県相模原市にNCR技術研究所を置き、従業員約四、五〇〇名をもってその業務を遂行している。

二  原告は、昭和二八年三月九日に被告会社に雇用され、直ちに蒲田工場に組立工見習として配属され、昭和三二年七月二六日に宝町営業所に技術員見習として配属換えとなり、その後昭和三三年七月二六日にAスクール(金銭登録機)を修了して技術員の資格を取得し、同月二八日に技術員となり、さらに昭和三四年一〇月一七日にBスクール(会計機、卓上簿記会計機)を修了して技術員として一応の教育課程を終え、昭和三七年一月一日から池袋営業所に技術員として勤務していた。

三  しかるに、被告は、昭和四一年六月一二日から原告を被告会社の従業員として取り扱わない。

四  原告の当時の賃金は、一か月金四五、二〇〇円(基本給四一、七〇〇円、調整加給三、五〇〇円)であり、前月二一日から当月二〇日までの分を毎月二〇日に支払われる約であった。

よって、原告は、被告に対し、原告が被告会社の従業員たる地位を有することの確認と、昭和四一年六月一二日から昭和四七年九月二〇日分までの賃金三、四〇三、一二二円および昭和四七年一〇月二〇日限り同年九月二一日(本件口頭弁論終結の日)分の賃金一、五〇六円の支払を求める。

≪以下事実省略≫

理由

一  請求原因事実については、当事者間に争いない。

二  懲戒解雇の意思表示について

被告が就業規則第一〇六条第六号により昭和四一年六月一〇日付通告書で原告に対し翌一一日付で原告を懲戒解雇する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いない。

三  懲戒解雇の理由について

1  自動車経費の不正受給について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

被告会社では、技術員がその所有する自動車を被告会社の業務のために使用して客先を訪問したときには、あらかじめ被告と技術員との間で締結した自動車賃貸借契約に基づいて、走行一キロ当り一六円の割合による自動車経費(自動四輪車の場合)を技術員に支給している。原告は、被告との間にこの自動車賃貸借契約を締結し、被告から後記のような報告走行キロ数によって算出した自動車経費の支給を受けていた。自動車の走行キロ数は、技術員報告書または定期点検報告書をもって一括して報告するとともに、技術課備付けの自動車経費報告書に毎日記入し、これによって所定の自動車経費が技術員に支給される。原告の所属する被告会社池袋営業所では、技術員見習が毎日出発時に技術員の所有する自動車のメーター数字を確認して自動車経費報告書のレフト欄に記入し、帰社時のメーター数字は、技術員がみずから確認して右報告書のリターンド欄に記入し、原則として後者から前者を差し引いたものが一日の業務走行キロ数として報告されている。

以上のとおり認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(二)  ≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 昭和四一年二月三日から同年三月七日までの実働二三日のうち、左記一三日の自動車走行キロ数について、原告が提出した技術員報告書または定期点検報告書に業務用に実走したものとして計上された報告キロ数は、左記報告キロ数欄記載のとおりである。一方、各報告書に原告が記載した客先の訪問コースに従って後記のような方法によって測定した実測キロ数は、左記実測キロ数欄記載のとおりであり、両者の間に、次のとおりの顕著な差がある。

月日 報告キロ数 実測キロ数 キロ数の差

二月 三日 二五 一四   一一

七日 二九 一二   一七

一四日 二六 一五   一一

一五日 二四  八   一六

一六日 一三  四    九

二一日 一九  八   一一

二二日 二〇  四・六 一五・四

二五日 二六 一四   一二

二八日 二〇 一四    六

三月 一日 二六  八・八 一七・二

二日 二五 一一   一四

四日 二〇  五   一五

七日 二四 一四   一〇

合計 二九七 一三二・四 一六四・六

(2) 前項のうち、二月一五日および二二日の実測キロ数は、佐藤課長補佐が三月中旬ごろにみずから実走して測定したものであり、また、三月一日および二日の実測キロ数は、同課長補佐が同月九日に右両日の報告キロ数を検証するため原告の自動車に同乗し、原告が右両日実走したと称して指定したとおりのコースに従って実走させて測定したものである。その他の日の実測キロ数は、佐藤課長補佐が五月二〇日および二一日の両日みずから実走して測定した。

前認定のような走行キロ数の確認方法をとる限り、報告キロ数と実測キロ数との間に若干の誤差を生じても奇異とするには足りないが、約一か月間にもわたって両者の間に格段の差があり、累計において報告キロ数が実測キロ数の二倍以上あるのは、異常である。その差を生じたことについて首肯するに足りる事情が証明されない限り、原告が両者の差に相当するキロ数を故意に水増し計上して報告し、被告から自動車経費を不正に取得しようとしたものと推認せざるを得ないのである。

以下、その事情の有無について検討を加える。

(3) 第一回懲戒委員会(五月二四日)において、原告は、自動車経費報告書に帰社時のメーター数字を記入せず、翌朝出勤後に前日の終業後に私用で走行したキロ数を差し引いたメーター数字を記入していたと申し立てた。それによると、原告は、終業後に自動車を使用することが多く、行き先も神田、新宿というように大体決まっており、また、池袋営業所からのキロ数および自宅と営業所間のキロ数もわかっているので、それに要したキロ数を翌朝出勤したときのメーター数字から差し引いたものを前日帰社時のメーター数字として右報告書に記入したというのである。しかし、他のほとんどの技術員は、このような記入方法を行なっていない。この点について、原告は、一日当り二キロか三キロの誤差が出るであろうことを認め、帰社した際に実際のメーター数字を確認して記入しなかったことをまずかったと思うと述べた。

仮にこの弁解を採用するとしても、原告が自認するように一日二・三キロの誤差を正当化することはできても、前認定のような多大の差を首肯させる事情とはなり得ないから、この弁解は原告に有利に作用しない。

(4) 原告は、五月二七日、人事部会議室で、前記一三日分の技術員報告書または定期点検報告書および原告が提出した各報告書に基づいて客先の訪問コース等を示した地図その他の関係資料を閲覧し、右資料に記載されている訪問した客先名および走行コースをメモした。その際、原告は、右資料に基づいて五月三〇日に佐藤課長補佐を原告の自動車に同乗させて実走し、報告キロ数と実測キロ数との間に差が出た場合には、その理由を翌三一日に説明することを大野懲戒委員会議長に約束した。しかし、その後、原告は、右資料に基づいていろいろ走行コースを考えて試走してみたが、実測したキロ数は報告キロ数に到底達しないので、右三〇日に佐藤課長補佐を同乗させて実走することをみずから放棄し、太田課長にその旨を伝えた。

このことは、原告自身が報告キロ数と実測キロ数との差について、合理的な理由を証明することができずに、かえって両者の厳然たる差に全面的に降伏してしまった証左であって、原告に不利な事情である。

(三)  三月一日および二日の分の実走の結果は、原告の指定するとおりのコースに従って走行したものであるにもかかわらず(しかも、≪証拠省略≫によれば、三月二日の分の走行コースは通常考えられる走行コースをかなり迂回していることが明らかである。)、報告キロ数と実測キロ数との間にそれぞれ一七・二キロおよび一四キロという大差があり、報告キロ数は、実測キロ数の二倍をはるかにこえている。

特にこの点について、原告本人は、三月九日に実走したとおりに同月一日と二日に走行したかどうか当時もはっきりした記憶がなかった旨、三月一日に伊勢屋食料品店を訪問したことを報告しなかった旨および三月一日に同僚の相場技術員をサカイモータースから営業所まで送ったかも知れない旨を供述するが、たやすく措信できない。≪証拠省略≫によれば、原告のテリトリーは、営業所に近い比較的狭い範囲であって、客先もほぼ密集しているので大部分の客先は徒歩で行ける近さにあることが認められる。このような狭いテリトリーにおいて、数キロ程度の距離であればともかく、一日に十数キロもの距離を走行したという行き先を約一週間後の三月九日の実走のときに同月一日および二日の両日分とも思い出せなかったなどということは、たやすく是認できないという外ない。所せん、原告の供述は弁解のための弁解と解する外ないのであるが、仮に三月一日の走行に関する原告の前記供述がいずれも事実であって、これにより同日の一七・二キロというキロ数の差が若干埋められることがあるとしても、三月二日の一四キロというキロ数の差はいかんともし難く、走行キロ数に関する原告の水増し報告の事実は、到底否定することができないのである。

懲戒委員会において、原告が走行キロ数の差が出たことを認め、その原因として報告書(フオ・フオ・ツー)の提出洩れや入れ違い、右報告書に載らなかったサプライの配達や集金および客先を捜したり、同僚を客先まで送ったこと、自宅に昼食をとりに帰ったこと等に要したキロ数であると申し立てたことは、当事者間に争いない。

しかし、技術員が報告書(フオ・フオ・ツー)の提出洩れや入れ違いをするようなことは絶無であるとはいえないとしても、それはごく例外的なことであるし、走行キロ数に影響するようなサプライの配達や集金等は、本来報告書に載せなければならないものである。したがって、恒常的に報告書の提出洩れや記載洩れがあったとは認められないのである。また、原告のテリトリーは、前認定のとおり営業所に近い比較的狭い範囲であって、客先もほぼ密集しているので大部分の客先は徒歩で行ける近さにあり、客先を捜すのにさほど走行を要するとは考えられない。原告が同僚を客先まで送ったことがあるとしても、そのため走行キロ数に大きく影響するような迂回をしてまで走行することは、被告の認めないところであるから、それに要した走行キロ数を報告することは明らかに不当である。昼食の件については、原告本人は、自宅に昼食をとりに帰ったことは一度だけあるが、日常はそういうことはないと供述している。そうすると、懲戒委員会における原告の言い分も、根拠のない弁解として一蹴するより外ない。

≪証拠省略≫によれば、原告は、走行キロ数について太田課長から注意を受けた(この事実は、当事者間に争いない)。が、その後である三月一四日から客先ごとに自動車のメーター数字を記入するようになったこと、走行キロ数は、注意前の二月三日から三月七日までの実働二三日は四八六キロと報告されているのに、注意後の三月一四日から四月一五日までおよび四月一八日から五月二一日まで(この期間のとり方が恣意的であることを認めるに足りる証拠はない。)は同じく実働二三日でありながら、それぞれ二九五キロおよび二五八キロしか報告されていないことが認められる。これらの差はそれぞれ一九一キロおよび二二八キロであって、注意後の報告キロ数は、注意前のそれよりも激減している。

サプライの配達、集金およびメインテナンス・キャンバス等は技術員の仕事の一部であるから、これらの仕事は太田課長から注意を受けた前後を問わず行なわれたはずである。客先を捜すこともまた然りである。同種の仕事をしながら、注意の前後において格段の差を生ずるのは不可解というより外なく、このことは原告に益々不利な事情となる。注意後の報告キロ数激減の事実は、注意前の報告キロ数が虚偽報告であることを推認する有力な間接事実となるのである。

さらに、原告本人は、二月二八日に新庚申塚方面の客先を訪問したことを報告しなかったが、その走行キロ数は約六キロであると供述するが、たやすく措信できない。しかも、仮に原告の右供述が事実であったとしても、走行キロ数の差が約六キロだけ埋められるにすぎない。原告本人は、注意後営業所付近はほとんど徒歩で客先を訪問した旨および高安技術員と一緒に巣鴨、駒込方面のテリトリーまで行ったり、同僚を客先まで送ることをやめた旨をも供述する。しかし、仮に原告の右供述が事実であったとしても、それは注意後の報告キロ数が注意前のそれよりも減少したことの原因の一つとしていくらか考慮されるべきであるというにすぎない。前認定のような激減の事情を首肯させるには足りないのである。後記2(九)(2)において認定するとおり、原告は二月一四日に高安技術員のテリトリーに属する駒込方面の有限会社坂上商店を訪問しているが、このことは報告されている。それにもかかわらず、前認定のとおりこの日も報告キロ数(二六キロ)と実測キロ数(一五キロ)との間に一一キロもの差があるのである。二月二三日から三月七日までの実働二三日のうち、原告が他の日にも報告書に記載せずに、巣鴨、駒込方面のテリトリーまで行ったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告が注意後営業所付近をほとんど徒歩で客先を訪問したとしても、それは注意前における走行キロ数の差が出たことのさしたる原因とはなり得ない。

以上の事情からみて、原告が主張しまたは供述するような原因によっては、報告キロ数と実測キロ数との間に生じた顕著な差は到底埋められないのであって、走行キロ数に関する原告の水増し報告の事実は疑いの余地がない。

以上を総合して考えると、原告は、昭和四一年二月三日から同年三月七日までの実働二三日に生じたキロ数の差一六四・六キロのうち、どんなに低目にみても一二〇キロは故意に水増し報告をし、被告からそのキロ数に対応する自動車経費一、九二〇円(16円×120)を不正に取得し、これによって被告に同額の損害を及ぼしたものと認めるのが相当である。

2  作為的な報告書の作成、提出について

(一)  昭和四〇年五月度(四月二六日―五月二五日)

昭和四〇年五月度における原告の報告の内容を的確に認めるに足りる証拠はない。もっとも、≪証拠省略≫によれば、昭和四〇年五月当時足立区および荒川区を担当していた奥積技術員と原告のそれとを比較すると、同月分の修理時間においては、原告の場合は一台に一時間三〇分を要した物が最も多いのに対し、奥積技術員の場合は、一台に一時間を要した物が最も多く、またサービス処理台数においては、原告の場合は一〇〇台未満であるのに対し、奥積技術員の場合は一〇〇台余りであり、さらに補修契約獲得件数においては、原告の場合は三件であるのに対し、奥積技術員の場合は九件であることが認められる。

しかし、両者の比較からだけでは原告の同月分の報告の内容が虚偽であることを推認するに足りず、他にこれを認めるべき証拠はない。

(二)  昭和四〇年六月度(五月二六日―六月二五日)(以下(1)ないし(8)記載の判断は、被告主張の同番号の事実に対する判断であり、(三)以下についてもこれに準ずる。)

(1) 原告が東京昆布海藻株式会社の一六〇号型加算機(卓上簿記会計機)を技術課に持ち込んで修理したことは、当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、その報告書の修理経過欄にはモーターが動かない旨(合計異算との故障については記載がない。)、修理に要した時間として四時間三〇分との記載があること、この故障修理は、極めて簡単なものであって、若干の準備時間をみても短時間で修理ができるものであり、佐藤課長補佐は、直ちに故障を発見し、一〇分位で修理を終えたことを認めることができる。

この事実と≪証拠省略≫によれば、原告程度の知識、経験を有する技術員ならば、右の故障はせいぜい二〇分程度で修理が可能であることが常態と認められるから、原告がこの故障修理に四時間三〇分を要したという原告の報告の内容は、準備時間等を考慮してもかなり水増しがあるとするのが相当である。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、会計機の活字の掃除およびインク・リボンの送りの調整は、通常所要修理時間は各々数分もあれば十分なことが窺われるから、これらの修理に一時間三〇分と一時間をそれぞれ要したという報告書の記載は虚偽ではないかとの疑いがある。しかし、このことだけから右の修理がいずれも五月二八日に終わっていたのに、翌日の怠けた時間を補うため五月二九日にも修理したように報告したと推認するのは論理の飛躍があって採用できない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(3) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、会計機の元帳の送り過ぎの故障修理はせいぜい二・三〇分で調整できるものであり、また技術員は最低五日分のインク・リボンを持ち合わせていることが認められるから、二八日に定期点検した会計機をさらに二九日に一時間三〇分を費やして修理したという報告は、その真実性に疑問を投げられてもやむを得ない。しかし、このことだけから二九日には全く修理に行かなかったのに行ったように虚偽の報告をしたと推認することは無理である。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(4) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、勧銀三河島支店の補修契約については、同行本店の指示で一括して加入することになっており、また資生堂北販売株式会社の加算機四台が六月に保証期間が終わることになっていたことが認められる。しかし、このことだけから右両店に対するメインテナンス・キャンバスに二時間を要したという報告が虚偽であるという推論を導くことはできない。また、荒川信用金庫町屋支店の定期点検が五月三一日と六月一日の両日に行なわれたような報告があっても、このことだけでは五月三一日には定期点検がなかったものと推認し、同日の報告を虚偽ときめつけることは無理である。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(5) 原告が被告主張のとおり六月四日に神戸銀行三河島支店の会計機の故障修理を行なったことをフオ・フオ・ツーで報告し、さらに同月九日にも同機の故障修理を行なったことをビジット・スリッブで報告したことは、当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、神戸銀行三河島支店の四二号型普通預金会計機のモーターのスイッチの接点の調整修理に二回で都合三時間三〇分を要したと報告していること、六月九日に松井、雨宮両商店のメインテナンス・キャンバスを行ない、二時間を要したと報告しているが、その技術員報告書の番号は「749669」であること、一方、六月四日の神戸銀行三河島支店の会計機の報告書の番号は「749671」であることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、モーター・スイッチの接点の調整は技術的に簡単なものであることが認められるから、原告がその調整に合計三時間三〇分を要したとする報告は、水増し報告の疑いを生ぜしめるか、原告の技術拙劣を証明するかのいずれかであろうが、このことだけをもって水増し報告と断定することは困難である。

松井、雨宮両商店に対するメインテナンス、キャンバスの報告書の番号と神戸銀行三河島支店の会計機修理の報告書の番号を対照すれば、報告書の番号の若い松井、雨宮両商店に対するメインテナンス・キャンバスは、神戸銀行三河島支店の修理より以前か同日になされているはずである。したがって、特別の事情のない限り、それより五日後の六月九日に右メインテナンス・キャンバスを行なった旨の報告書の記載は事実に反するものと推認されるのである。

右によれば、神戸銀行三河島支店および東京インキ株式会社に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできないが、松井、雨宮両店に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(6) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、一四日の報告書に記載されているレジスターの製造番号は「21―7169082」と「21―7169083」であること(報告書に転写されている後者の製造番号の末尾の数字は著しく不鮮明であって、「2」とも読み得る。)、後者の製造番号を有する機械は小田万総本店に存在しないことを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、レジスターのインク・リボンの取替え自体は、通常二・三分で完了する作業であることが認められるから、原告がインク・リボンの取替えに一時間三〇分を費やしたという報告は、特別の事情のない限り、事実に相違するものと推認される。のみならず、小田万総本店には、「21―7169083」なるレジスターは存在しないのであるから、この定期点検およびインク・リボンの取替えをしたという報告は、事実に反すること明白である。

右によれば、インク・リボン取替作業時間および製造番号21―7169083なる機械に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。≪証拠判断省略≫

(7) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

右の事実によれば、荒川信用金庫本店で六月四日に定期点検を行ないながら、同月一六日にスイッチの接点の取替えおよび会計器の注油をしたり等して修理時間一時間三〇分を要したと報告しているのである。≪証拠省略≫によれば、スイッチの接点の取替えおよび会計器の注油等の作業は、通常定期点検の際に行なわれるべきものであることが認められるから、右報告の内容は事実に反するか、または定期点検をずさんにしたかのいずれかを例証するものと思われるが、このことだけから報告書の内容を虚偽と断ずることは困難であろう。また、同号証および右証言によれば、金融機関においては、午後三時以降でなければ、通常定期点検ができないことが認められるから、右信用金庫において合計五時間の定期点検を行なった旨の報告は、水増し報告の疑いが濃厚であるが、五時間という報告時間からだけでは、これを水増しと断ずるのは無理である。また、同金庫町屋支店のレジスター点検の件およびコロナ工業株式会社の補修契約の勧誘の件を出たら目な報告という被告の主張は、推理に陶酔するものであって合理性がないから、採用に値しない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(8) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、六月二一日の報告書の番号は「746124」、同月二四日のそれは「746125」、同月二二日のそれは「747576」であること、同月二四日の報告書の日付は一たん何日かを記入したものを「24」に書き替えたものであること(書替え前の日付が何日であったかははっきりしない。)を認めることができる。

前認定の報告書の一連番号の順序から見れば、六月二四日にしたと報告されている加算機の修理は、六月二一日か同月二二日にしたものと推認されるから、これを同月二四日にしたとする報告は、事実と相違するものといわざるを得ない。

右によれば、この点に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(三)  昭和四〇年七月度(六月二六日―七月二五日)

(1) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること(ただし、AHK二〇〇〇号型普通預金会計機二台の定期点検に関する部分を除く。)を認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、右報告書にある七月九日のラインガイドの取付け、清掃およびキャレジの注油はいずれも簡単な作業で、通常ならば一時間三〇分も要するものではないこと、ラインガイドの清掃およびキャレジの注油は普通定期点検の際に行なうべきものであることが認められる。そうすると、清掃および注油等に一時間三〇分を要したという報告は、事実に反するか、または事実ならば原告の技術拙劣に由来するということになるが、これだけではこの時間を虚偽の報告と断言することはできない。また定期点検に通常行なうべき作業を後日に行なったという報告からすれば、定期点検または後日の作業のいずれかが虚偽報告ではないかとの疑いがあるが、いずれが虚偽であるかを確定するに足りる証拠はない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

確かに技術員としては、故障修理に赴いた際に合わせて定期点検を行なうことが可能なはずであるから、故障修理の際に定期点検を行なわず、後日改めてこれをすることは労力の節約上得策ではないかも知れない。しかし、両者を別個に行なったという報告書の存在だけから、定期点検の報告を虚偽報告ときめつけるのは、けん強付会のそしりを免れない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(3) ≪証拠省略≫によれば、被告主張事実をすべて認めることができる(原告本人は、自動車の修理に時間がかかったので長時間の報告をしたと供述するが、措信しない。のみならず、仮に原告の右供述が事実であったとしても、その故に虚構の報告が正当化されるものでもない。)。

したがって、この点に関する原告の報告の内容は虚偽である。

(4) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

補修契約代金の集金の後に補修契約の勧誘に赴くことは、尋常ではないと思われるけれども、それだからといって補修契約勧誘の報告を事実に反するものとする決め手とはならない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(四)  昭和四〇年八月度(七月二六日―八月二五日)

(1) 原告の報告の内容が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いない。

金融機関における会計機の点検等が午後三時以降になされるのが常態であることは前記のとおりであるが、このことだけから右報告の内容を事実に相違するものと断ずることはできない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(2) 原告の報告の内容が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、右報告にかかるようなモーターのとめネジがゆるんだことに原因する加算機の故障は、優秀な技術員であれば、故障の原因を発見して修理を完了するのに一時間もあれば十分であることが認められる。そうすると、右の故障の発見と修理に三日間合計六時間を要したとすれば、事実ならば原告の技術が劣悪で被告の期待に反したことになるが、それだからといって右の報告を水増し報告と断定することには論理の飛躍がある。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(3) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

確かに八月七日に修理用部品のないことに気付きながら、同月九日および一〇日と連続して定期点検をしながらこれを取り付けず、ようやく八月一二日になってこれを取り付けるというのは、奇妙なことである。しかし、原告の不注意または怠慢でそうなったかも知れないし、その部品の在庫のなかったことも考えられるから、この事実だけから、八月九日および一〇日の定期点検は存在しなかったと断ずることはできない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(4) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、八月一〇日の報告書に機械番号の転写および客の捺印がないこと、同月一六日の報告書に機械番号の転写および客の捺印が別の紙になされたものを切り取って貼り付けてあることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、右報告にかかる機械は事務所内にあるものであり、修理点検して機械番号の転写および顧客の捺印の双方ともとれないということは通常考えられないことであることが認められる。そうすると、特別の事情のない限り、右報告は作業の事実がないのに、あるように架空の報告をしたものと推認せざるを得ないのである。

右によれば、この点に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。≪証拠判断省略≫

(5) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、八月一三日の報告書の番号は「745734」、同月一六日のそれは「745735」、同月一三日のそれは「745736」であること、同月一六日の報告書の日付は一たん「13」と記入したものを「16」に書き替えたものであることを認めることができる。

右報告書の一連番号の順序からすれば、特別の事情のない限り、八月一六日作業と報告されているものは、八月一三日のそれであると推認されるから、これを八月一六日とした報告は事実に相違するものといわざるを得ない。

右によれば、この点に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(6) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

確かに同一店に接近した三日間修理点検に赴くのは、それありとすれば無計画性と非能率の最たるものであろうが、それだからといって、これだけでそのいずれかの修理点検が架空のものであると断定するには十分でないから、この報告の虚偽を断ずることはできない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(五)  昭和四〇年九月度(八月二六日―九月二五日)

(1) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、原告は会計機の修理に七年の経験を有しており、報告にかかる元帳送り出し装置の故障は、最も簡単なものであることが認められる。そうすると、この修理に三日間合計六時間三〇分を要したという報告は、事実と相違する疑いが濃厚であるが、どの日の何時間が架空のものであることを確認するに足りる証拠はない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容およびフオ・フオ・ツーの番号が被告主張のとおりであることを認めることができる。

右認定の報告書の一連番号の順序によれば、九月一日に七四五二二〇番をもって報告されることは、原則としてあり得ないことであるから、特別の事情のない限り、右番号を付した報告書の内容は真実に反するものと推認せざるを得ない。

右によれば、この点に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(3) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、九月一日と同月一四日の報告書にそれぞれ機械番号の転写および客の捺印が別の紙になされたものを切り取って貼り付けてあることを認めることができる。

機械を修理して機械番号の転写および客の捺印が全くとれないことはあり得ないこと前記のとおりであるから、別の紙になされた機械番号の転写および客の捺印を切り取って貼り付けたことは、当日報告書記載のとおりの作業をしていないことを端的に証明するものといわざるを得ない。すなわち、右報告書の内容は真実に反するのである。

右によれば、この点に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(4) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

しかし、このことだけから右報告書の内容を架空のものと断定することが不可能であることは、先に述べたところと同様である。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(六)  昭和四〇年一〇月度(九月二六日―一〇月二五日)

(1) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

しかし、このことだけから被告主張のように三時間程度の水増し報告をしているという推論を導き出すのは、その合理性を首肯させるに足りる証拠が十分ではない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、一〇月九日の点検または修理としてほかに株式会社北村園の二二号型レジスター一台の点検があるが、そのほかはキムラヤ、杉浦商店、東都銀行町屋支店のメインテナンス・キャンバスで一日の勤務が終了していること、これによると、一日の勤務時間のうち、点検または修理に要した時間が四時間三〇分、メインテナンス・キャンバスに要した時間が三時間となることを認めることができる。

しかし、このことだけから被告主張のようにメインテナンス・キャンバスに要した時間が過大であるから架空報告であると推断するには、その推論を補強する証拠が十分ではない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(3) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、一〇月二一日の報告書の日付は一たん何日かを記入したものを「21」に書き替えたものであること(書替え前の日付は「20」のようにも読み得る。)を認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、同一顧客に二台の会計機がある場合、一日で点検が完了するはずで、これを二日に分けて点検することはまずあり得ないことであることが認められる。このことと前認定の事実によれば、原告は東海銀行三河島支店において一〇月二〇日に二台の会計機の点検を完了したのに、うち一台については二一日に点検したように真実に反する報告をしたものと推認されるのである。

右によれば、一〇月二一日の原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(七)  昭和四〇年一一月度(一〇月二六日―一一月二五日)

(1) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

しかし、この事実だけでは、いずれか一日の定期点検およびその他の作業の報告が虚偽であると断定することはできない。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、一一月五日の富士銀行尾久支店の報告書の日付は一たん何日かを記入したものを「5」に書き替えたものであること(書替え前の日付が何日であったかははっきりしない。)を認めることができる。

金吉ストアに関する部分については、右の事実だけでは五日の報告が虚偽であると断定することはできない。富士銀行尾久支店の件については、同一店舗内の定期点検は同一日に済ますことが原則であることは前記のとおりであり、このことと前認定の事実によれば、同店における定期点検は四日に完了しているのに、五日にも行なったように架空の報告をしたものと推認されるのである。

したがって、金吉ストアに関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできないが、一一月五日の富士銀行尾久支店に関する原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(3) 原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、東莫ストアの報告書に指示された転写、捺印がないことは、当事者間に争いない。

しかし、このことだけから作業所要時間の水増し請求の事実を推認できないことは、前述のとおりである。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(4) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。補修契約の勧誘の報告書に客先の転写、捺印がないことは、当事者間に争いない。

しかし、この事実だけでは、右報告書の内容を虚偽と推認できないことは、前述のとおりである。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(5) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

作業の内容がこのとおりであるとするならば、無計画、非能率な作業であるとの非難を免れないかも知れないが、それだからといっていずれか一日の報告が水増し報告であると推認するのも困難である。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(八)  昭和四一年一月度(一二月二六日―一月二五日)

≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであることを認めることができる。

≪証拠省略≫によれば、インク・リボンは機械の使用頻度によっても差があるが、早くても一か月、普通は二・三か月使用してから交換すれば十分であることが認められる。そうすると、右認定のインク・リボンの交換はひん繁に過ぎて、この間何らかの作為があるのではないかとの疑いを生ずるのも無理からぬものがあるが、それだからといって、被告主張のように架空の報告をしたという結論を導くには、なお説得力ある証拠が乏しい。

したがって、この点に関する原告の報告の内容が虚偽であるとすることはできない。

(九)  昭和四一年二月度以降(一月二六日―三月七日)

(1) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、六〇〇〇号型レジスターの報告書に押された客先印(社名と年月日入りのゴム印)は「41.2.7」の「7」の上を黒インキで「8」と書き替えたものであることを認めることができる。株式会社キンカ堂が毎週金曜日を定期点検日と定めていることは、当事者間に争いない。

同一店舗内の機械の定期点検は一日で済ますのが原則であることは前記のとおりである。このことと前認定の事実によれば、六〇〇〇号型レジスターの点検は二月七日にしたのに、これを二月八日に点検したように架空の報告をしたものと推認せざるを得ない。

右によれば、二月八日の原告の報告の内容は虚偽であるとするのが相当である。

(2) ≪証拠省略≫によれば、原告の報告の内容が被告主張のとおりであること、原告が修理または定期点検をした有限会社坂上商店の機械は、いずれも二二号型金銭登録機であって、高安技術員が容易に修理、点検のできるものであること、佐藤課長補佐は一二月九日原告に対しテリトリー変更の際の注意事項として、修理、点検のために他の技術員のテリトリーへ行く場合には同課長補佐の指示に従うよう特に伝えたことを認めることができる。原告が他の技術員の応援を行なうよう指示された事実のないことは、当事者間に争いない。

原告の報告の内容が虚偽であることを推認するに足りる証拠はない。

しかし、佐藤課長補佐から注意を受けていたにもかかわらず、無断で他の技術員のテリトリーへ行って仕事をした原告の行為は、ただこれだけならば余分の仕事をしたということになるだけであるが、それはすなわち自動車経費の支給額の増加をもたらすことであるから、正当でないといわざるを得ない。

(3) ≪証拠省略≫によれば、報告書はアップ・ツー・デートに提出しなければならないのに、原告は三月一日および二日の報告書を三日朝に合わせて提出し、同月四日の報告書は五日および六日が休日のため七日朝には提出すべきであるのに、これを提出しないまま放置し、七日夕方太田課長から注意して提出させたことを認めることができる。三月一日および二日の報告書の走行キロ数が水増しをしたものであることは、すでに認定したとおりである。

原告の以上の行為が正当でないことはいうまでもない。

(4) 原告が桃屋産業株式会社の定期点検を行なわなかったことは、当事者間に争いない。

しかし、被告の主張によれば、この事実は原告の解雇後に発覚したというのであるから、本件解雇に当り、被告はこの事実を全く認識せず、解雇の理由として考慮しなかったものといわなければならない。

したがって、桃屋産業株式会社の定期点検に関する事実は、本訴においても解雇の理由として考慮することはできない。

3  就業規則の適用

(一)  原告が昭和四一年二月三日から同年三月七日までの実働二三日のうち、自動車走行キロ数について少なくとも一二〇キロの水増し報告をし、被告からそのキロ数に対応する自動車経費一、九二〇円を不正に取得し、これによって被告に同額の損害を及ぼした行為は、就業規則第一一三条八号に定める懲戒解雇事由である故意に会社に損害を及ぼしたときに該当する。

その行為は、従業員がその職務を利用して私腹を肥やし、会社に損害を与える破廉恥行為であるから、従業員の非行としては他に類例を見ないほど悪質、不当なものであって到底弁解する余地のないものである。したがって、この事実だけでも十分懲戒解雇に値するものである。単に不正取得の金額が少ないからといっても、その行為の性質からすれば、到底その責任を免れることができるものではない。

(二)  さらに、昭和四〇年五月二六日の東京昆布海藻株式会社の修理時間に関する報告(前記2(二)(1)の事実。以下、( )内の番号のみを示す。)、六月九日の松井、雨宮両商店に関する報告((二)(5))、同月一四日の小田万総本店のレジスターのインク・リボン取替時間に関する報告および製造番号21―7169083なる機械に関する報告((二)(6))、同月二四日のアルプス食品工業株式会社に関する報告((二)(8))、七月一四日の富士銀行尾久支店に関する報告((三)(3))、八月一〇日および一六日のアルプス食品工業株式会社に関する報告((四)(4))、同月一六日の有限会社河西園ストアに関する報告((四)(5))、九月一日の大和銀行三河島支店に関する報告((五)(2))、同月一日の日本相互銀行尾久支店および同月一四日の小田万総本店に関する報告((五)(3))、一〇月二一日の東海銀行三河島支店に関する報告((六)(3))、一一月五日の富士銀行尾久支店に関する報告((七)(2))、昭和四一年二月八日の株式会社キンカ堂に関する報告((九)(1))、三月一日および二日の自動車走行キロ数に関する報告((九)(3))はいずれも虚偽であり、同年二月一四日の無断で他の技術員のテリトリーへ行って仕事をしたこと((九)(2))ならびに三月三日および七日に遅れて報告書を提出したこと((九)(3))も正当ではない。

技術員報告書または定期点検報告書は、技術員の一日の勤務内容を報告するものであって、技術員の勤務成績を評価する一つの資料となるとともに、自動車走行キロ数の裏付けともなる書類である。このような重要書類に原告が行なったような虚偽の記載をすることが著しく不当であって許されないことはいうまでもない。≪証拠省略≫によれば、被告会社では、日頃から技術員に対し報告書は正確に記載し、かつ、アップ・ツー・デートに提出するよう注意、指導していたことが認められる。しかも、原告に対しては、太田課長が昭和四〇年七月二三日に報告書は事実をありのままに報告するよう特に注意している(この事実は、当事者間に争いない。右に掲げた各証拠によれば、この注意は、佐藤課長補佐の調査により七月一四日の富士銀行尾久支店に関する原告の報告の内容が虚偽であることが明らかとなったので、太田課長が右事実をも指摘して厳重になしたものであることが認められる。)。それにもかかわらず、原告は、太田課長から注意を受けた前後を問わず多数回にわたって作為的に虚偽報告を繰り返したのである。その動機、原因については、不純にも原告が怠けていた時間の埋合せまたはごまかしをすることにあったものと推測する外なく、その手段も必ずしも単純なものばかりではない。このような虚偽報告は、ひいては自動車走行キロ数に関する報告の正確性にも直接に影響を及ぼすものである。

右によれば、原告の前記虚偽報告その他の行為は、就業規則第一一三条第二号に定める懲戒解雇事由である業務上の指示命令に従わず、会社の秩序を乱し、その情の重いときに該当し、これを前記自動車経費の不正受給の行為と考え合わせるときは、そのため懲戒解雇に付されてもやむを得ないものといわざるを得ない。

四  不当労働行為について

1  組合の結成について

原告が被告会社に雇用された昭和二八年三月当時、被告会社に労働組合がなかったことおよび昭和三二年二月一六日組合が結成されたことは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、原告は、右組合の結成に当り、その中心人物の一人として活発な組合結成準備活動を行なったことが認められる。

2  組合における原告の地位について

原告が組合結成と同時に組合に加入し、それ以来終始原告主張のとおり書記長、中央執行委員長など組合の枢要な役職を歴任し、本件解雇当時は関東支部書記長の地位にあったことは、当事者間に争いない。

3  原告の組合活動について

(一)  昭和三三年、被告会社に労使をもって構成される研究機関として賞与委員会が設けられたこと、原告が組合側委員であったことおよび賞与委員会の審議内容を組合機関紙上に発表したことが問題となったことは、当事者間に争いない。

(二)  昭和三四年六月、被告が組合に対し蒲田工場内の組合事務所の立ちのきを要求したこと、その後この組合事務所明渡し問題について団体交渉が重ねられたこと、被告が同年九月二八日組合事務所を取り壊したこと、組合が元の場所に組合事務所用建物を再築したことおよびこの問題は会社構外に全額被告の負担で組合事務所を設けることになり、総額二、一〇〇、〇〇〇円で現在の組合事務所が設けられたことは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、組合事務所明渡し問題は、組合が元の場所に再築した組合事務所用建物の占有妨害禁止の仮処分をするなど一時は紛糾し、組合執行部内でも意見が分かれたこと、原告は組合事務所対策委員として立ちのき条件に関する被告との交渉に当たったこと、この問題は両者の自主交渉により昭和三五年四月一三日に円満解決をし、前記のような結果になったことが認められる。

(三)  原告が中央執行委員長の地位にあった当時、組合が昭和三五年夏季および秋季年末闘争で例年にない激しい闘争を展開し、昭和三七年秋季闘争では組合結成以来初めてのストライキを原告主張とのおり実施したことならびに一時金の支給率が昭和三七年夏から昭和三九年暮れまでの間原告主張のとおりであったことは、当事者間に争いない。

4  組合における技術関係両支部の位置について

組合が昭和三九年当時中央本部のもとに技術支部、大磯支部および蒲田支部の三支部から成っていたこと、同年九月大磯支部が分裂して日本NCR労働組合が結成された結果、総組合員数が減少したことならびに昭和四〇年九月技術支部が関東、関西両支部に分割されて原告が関東支部書記長に就任したことは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、組合の組織人員の推移に関する原告主張事実が認められる。

右によれば、技術関係両支部は、少なくとも組織人員の点において組合の主力組織をなしていたことが明らかである。

5  本件解雇の一時金闘争に与えた影響、被告の組織攻撃について

(一)  本件解雇が昭和四一年夏季闘争のさなかに行なわれたこと、右闘争における組合の要求および妥結の時期、金額が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、第一回懲戒委員会が一時金回答日と同じ日である昭和四一年五月二四日に開かれたこと、原告を懲戒解雇する旨の通告書の日付である六月一〇日は全国統一ストの日であったこと、本件解雇に至るまでの経過は被告主張のとおりであること、技術関係両支部では夏季闘争に混乱を来たし、ことに原告の所属する関東支部では、原告主張のような事情があって一時金闘争の足並みが乱れたこと、組合は一時金回答後三か月以上にわたって闘争を続けたけれども、結局九月一日に三か月分という被告の回答どおりの金額で妥結したことが認められる。

(二)  六月二八日、桜井技術監督が大阪営業所所属の技術員である関西支部闘争委員長織田貞夫に対し内勤を命じたことは、当事者間に争いない。

≪証拠省略≫によれば、関西支部では、即日右内勤命令に抗議して指名ストに入り、翌二九日にも全員抗議ストを実施するとともに団体交渉をした結果、被告は、三〇日から織田貞夫に対する内勤命令を解くことを約束したことが認められる。

原告主張の関東支部では管理職員らが組合脱退工作を行なっているとの点については、≪証拠省略≫中にこれに符合する部分があるが、たやすく措信できない。

6  原告は、組合の結成に当り、その中心人物の一人として活発な組合結成準備活動を行ない、組合結成と同時に組合に加入し、それ以来書記長、中央執行委員長など組合の枢要な役職を歴任した。

原告が賞与委員会の審議内容を組合機関紙上に発表したこと、一時は紛糾した組合事務所明渡し問題について組合事務所対策委員として立ちのき条件に関する被告との交渉に当たったこと、あるいは中央執行委員長の地位にあった当時、組合が昭和三五年夏季および秋季年末闘争で例年にない激しい闘争を展開し、昭和三七年秋季闘争では組合結成以来初めてのストライキを実施したことなどは、原告が活発な組合活動を行なったことを顕著に示すものである。

しかし、これらの行為は、いずれも本件解雇よりも三年ないし七年以上も前のことであって、すでに解決ずみのことばかりである。原告のこのような行為が今になって被告をして本件解雇を決定させる理由となったものとは到底考えられないし、また、原告の右行為が本件解雇の理由となったとの証拠もない。したがって、以上の事実を不当労働行為判断の資料とすることはできない。問題は、本件解雇当時の事情に関する。

技術関係両支部は、少なくとも組織人員の点において組合の主力組織をなしていたものであり、原告は、本件解雇当時その関東支部書記長の地位にあった。

折しも、本件解雇は、昭和四一年夏季闘争のさなかに行なわれた。このような時期に原告のような組合活動家が解雇されるならば、組合がその理由を正解する暇のないままに、組合員の士気を喪失させたり、また、組合幹部を失うこと等によって組合がある程度の打撃を受けることはあり得るかも知れない。現に、技術関係両支部では、本件解雇の影響により夏季闘争に混乱を来たしたのである。

しかし、それだからといって、当然には、本件解雇が組合に対する支配介入となるものではない。その成否は、懲戒解雇に値する事由が存在するかどうかにかかっている。有力な組合幹部が懲戒解雇に値する行為をして、それを理由に懲戒解雇をされたため、組合が有力幹部を失って弱体化したとしても、それは組合がたまたまかかる者を幹部として選任していた結果生じた事態であって、その結果のみをもって不当労働行為の成立を肯定してはならないのである。そうでないとするならば、有力幹部は、対使用者との関係において懲戒事由を免責されるという不当な結果を生ずるであろう。組合幹部も従業員としては、他の一般従業員に比して、労働協約または就業規則等に特別の定めのない限り、職場規律上の特権を保持するものではないからである。まして原告のしたような破廉恥行為の責任においては、組合役員としての地位の考慮は無力である。

のみならず被告が昭和四一年夏季闘争のほこ先を鈍らせるという効果を狙って本件解雇を行なったものであることを認めるに足りる証拠もない。なるほど、第一回懲戒委員会が一時金回答日と同じ日である同年五月二四日に開かれたこと、原告を懲戒解雇する旨の通告書の日付である六月一〇日は全国統一ストの日であったことなど符節を合わせたように想像されないでもないが、本件解雇に至るまでの経過に照らし、そのような想像は未だ憶測の域を出ない。

なお、六月二八日、桜井技術監督が大阪営業所所属の技術員である関西支部闘争委員長織田貞夫に対し内勤を命じたことについては、その処置の当否と本件解雇のそれとは別個のことであって、事実関係に照らし格別関連はないものと認められる。

本件解雇には、自動車経費の不正受給および作為的な報告書の作成、提出という合理的かつ相当と考えられる懲戒解雇事由が存在する。このような事由があれば、だれであっても懲戒解雇に付されてもやむを得ないものといわざるを得ないから、前説示したところにより不当労働行為が成立する余地はない。原告は、その経歴に照らしても活発な組合活動家であると認められるけれども、懲戒解雇に値する不正行為をした以上、解雇に付されてもやむを得ないのである。

したがって、本件解雇が不当労働行為であるから無効であるとの原告の主張は理由がない。

五  以上のとおりであるから、本件解雇は有効であり、これにより原告と被告との間の雇用契約関係は昭和四一年六月一一日限り終了したものといわなければならない。

よって、その後もなお右雇用契約関係が存続することを前提とする原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 安達敬 飯塚勝)

〈以下省略〉

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